犬の気管虚脱
気管虚脱とは、気管膜性壁の下垂及び気管軟骨の脆弱化によって気管が扁平化する疾患です。
鼻や口から取り込んだ空気を胸の中に運ぶ為の管として、気管という組織があります。
その気管は軟骨の壁に取り囲まれており、しっかりと硬い状態が通常の状態です。
気管虚脱になってしまうと、その気管が柔らかくなり、平たく潰れてしまうようになります。
平たく潰れるようになると、外部からの刺激によって咳が出るようになり、
さらに潰れていってしまうと急性の呼吸困難になってしまう場合があります。
原因として詳しくわかっていないことも多いのですが、チワワやトイプードル、ヨークシャーテリアなど、
特定の犬種が気管虚脱になってしまうことが多く、遺伝的な要因もあるのではないかと言われています。
重症度分類といって、気管の潰れ方によってどれだけ気管虚脱が進行しているかをみる分類があります。
軽度であれば、内科治療(内服薬・注射薬)によって症状をコントロールしていきます。
重度になってくると、症状の軽減と急性の呼吸困難の予防として外科治療を考慮します。
外科治療には、気管内ステントと気管外プロテーゼ法というものに大別されます。
気管内ステントは、その名前の通り気管の内部にステント(金属の筒のようなもの)を留置する方法です。
比較的短期間の麻酔で済むのと、口から気菅に入れていく方法になるので、皮膚を切ったりする必要はありません。
しかし、ステント自体が高額になること、ステントに反応して処置後も比較的咳が出ることがデメリットとして挙げられます。
気管外プロテーゼ法は頸部の皮膚を切開して、気管の外からプロテーゼという筒のようなものを気管に固定する方法です。
気管内ステントに比較すると、麻酔時間が長くなりやすく、頸部の皮膚や組織を切開していく必要があります。
しかし、費用が比較的抑えられること、プロテーゼに反応して咳が出ることが、ステントに比較すると少ないことがメリットとして挙げられます。
当院では、外科的治療に踏み切る場合には気管外プロテーゼ法を採用しています。
どちらの方法にもメリットとデメリットがあり、どちらの方が優れているということもありませんが、
長期間の管理には気管外プロテーゼ法の方がメリットが多いと判断し、採用してます。
当院の気管外プロテーゼにはPLLP(Parallel Loop line Prosthese)と呼ばれる、特殊な形に成形したプロテーゼを用いて手術を行っています。
症例
6歳のヨークシャーテリア、発作性の呼吸困難を症状として来院されました。
レントゲンにて重度の気管虚脱を確認しました。
冷却や安静、ステロイドの投与といった、一般的な上部気道に原因がある呼吸困難に対しての内科治療に反応せず、
人工呼吸用のチューブを喉から入れての人工呼吸管理に移行しました。
呼吸がやや落ち着いてきてからも、人工呼吸用のチューブを抜くと呼吸することができず、手術に移行しました。
頸部の皮膚を切開し、筋肉を分けていき、気管を出していきます。
気管の周囲の組織を分けていき、プロテーゼを装着、縫合によって固定します。
その後、レントゲンによって気管の拡張を確認します。
手術後、人工呼吸用のチューブを抜いても自分自身で呼吸できるようになり、数日の入院後、無事退院しました。
その後、1年以上再発は認められていません。
気管虚脱は、軽度であると内科治療で経過を見ていくことが多いのですが、重度になり、呼吸に影響が出てきてしまうと、
外科的な治療を行わざる得ない場合もあります。
当院では外科的な治療も行っておりますので、小さなご家族が気管虚脱によって苦しんでいる時には、是非一度ご相談ください。