肛門嚢腺癌は、臭いの分泌腺である肛門嚢にできる腫瘍で、良性である腺腫は極めて珍しいとされています。
また、別名を、肛門嚢アポクリン腺癌といいます。
好発犬種としてはダックスフンドやジャーマンシェパード等が報告されています
発生の初期には無症状であることが多く、存在が気づかれた時には大きくなっているケースがほとんどです。
症状としては排便困難や排便時のいきみや痛みが出ることが有ります。
治療としては外科的な切除が一般的ですが、腫瘍の解剖学的な位置から、周囲の組織ごとの拡大切除をすることによっての完全切除が難しい腫瘍でも有ります。
転移率も比較的高く、補助的な化学療法や、緩和治療としての放射線療法も治療の選択肢となります。
症例
15歳のトイプードルが、かかりつけの病院で肛門横のしこりを細胞診検査したところ、肛門嚢腺癌の疑いがあるとの診断を受けて、手術をご希望され来院されました。
肛門右横に4cm程度のしこりが有り、排便に関しては現在症状は見られませんでした。
肛門嚢腺癌はお腹の中のリンパ節(腰下リンパ節群)に転移することが多く、超音波検査やCT検査にてリンパ節の確認を行ったところ、明らかな転移は認められませんでした。

比較的腫瘍のサイズが大きく、切除手術に伴い、排便時や便が漏れないように機能している肛門括約筋を損傷するリスクがあるため、手術後に便が漏れてきてしまう可能性が有ります。
麻酔をかけて体位をうつ伏せの状態に固定をして、肛門周囲の毛を刈り、手術の準備をしていきます。
腫瘍の真上の皮膚を切開し、腫瘍を露出します。


すぐ横に、肛門及び直腸があるため、損傷しないように注意をしながら周囲組織の剥離をしていきます。
腫瘍真横の肛門括約筋は、腫瘍と癒着をしていた為、一緒に切除をしていきます。


肛門括約筋をとると、直腸壁が露出をしてしまうので、直腸を穿孔してしまわないよう周囲の組織を慎重に剥離をしていきます。
周囲の組織を剥離し終えると、肛門とつながる肛門嚢の導管のみが残るので、糸で結紮し離断します。これで腫瘍が摘出できました。


周囲組織の損傷を確認し、筋肉の状態や直腸が穿孔していないか見ていきます。
また、肛門周囲の大きな腫瘍をとっていくと、筋肉や組織が大きく損失するため、孔が開いてしまい、肛門横にお腹の臓器が出てきてしまう会陰ヘルニアという病気になってしまうことが有ります。
この症例も、大きく組織が損失してしまったので、お腹の脂肪が肛門横に出てきてしまう状態になったため、周囲の筋肉を縫合し孔を閉鎖していきます。


周囲組織及び皮膚を縫合閉鎖し、手術を終えました。


手術にて肛門括約筋の損傷はあったので、術後は便が少量漏れる状態は続いたものの、傷が落ち着いてくる頃にはしっかりと排便できるようになりました。
肛門嚢腺癌は気づかれにくいことが多く、発見時には大きくなっていたり、転移を起こしていることの多い腫瘍になります。
小さなご家族が肛門嚢腺癌でお困りの方は、是非一度当院までご相談ください。