カメの卵詰まりは、産卵期によく遭遇する疾患で有り、飼育管理下ではよく見られる疾患の一つです。
卵詰まり、卵塞には明確な定義はなく、卵管内に卵殻形成のある卵を保有している期間が長い、もしくは、卵管内に卵を保有したまま食欲不振や活動性の低下、いきみのような行動が続く、排尿や排泄がないなどの症状が持続すると疑いを持たれる疾患になります。
原因としてはわかられていないことが多く、飼養管理が不適切な場合、栄養不良、肥満、骨盤の構造的な異常、膀胱結石や腫瘍など、体腔内に構造物をもつ場合などが挙げられます。
診断にはレントゲン検査にて卵殻形成のある卵が卵管内にあることを確認し、出てきている症状が卵に起因して起こっているかで判断していきます。
また、卵の位置が骨盤腔内にあり、排泄がないことや、急激に症状が出ている場合には、構造的な卵塞となり、卵塞を強く疑う原因にもなります。
また、卵殻形成がない状態の卵胞が多量に形成される卵胞うっ滞によっても同様の症状が起こることがある為、診断を行うために超音波検査が必要になることも有ります。
症例
10歳のミドリガメ(ミシシッピアカミミガメ)が急激にいきみが出てきて苦しそうという症状で来院しました。
いきみが出てきてからは元気や食欲がなくなり、排泄もない状態でした。
レントゲン検査を行うと、骨盤腔内に卵殻形成のある卵が入り込んでおり、動いていない様子でした。

排泄もない状態だったので、緊急で手術を行う必要があり、排卵促進剤を投与するなどの内科療法で様子を見ることも選択肢の一つだったのですが、ご家族の強い希望で手術を実施することにしました。
麻酔をかけて、人工呼吸用のチューブを挿管した後、仰向けに体位を固定していきます。
消毒を実施した後、お腹側の甲羅(腹甲)を切っていきます。骨盤にアプローチが実施でき、心臓を傷つけない位置、かつ後肢を動かす筋肉が傷つかない位置を見定めて、甲羅の切る位置は慎重に決定する必要があります。


また、甲羅を切っていくときに、頭側側の腹直筋はなるべく残して切り、甲羅への血流が残るようにします。
腹甲を四角く切って持ち上げると、腹膜と腹膜に分布する腹壁静脈が見えてきます。
静脈を傷つけないように腹膜を切開すると、開腹となり、お腹の中にアプローチができます。


卵巣には多数の卵胞が形成され、卵管内には多数の卵殻形成がある卵が確認できました。
また、骨盤腔内に卵が入り込んでいるとともに、膀胱の中に卵が移動してしまっていました。


多数の卵胞とともに卵巣を離断し摘出し、多量の卵とともに卵管を摘出しました。
骨盤に入り込んでしまった卵は膀胱内に移動してしまっていたので、膀胱切開にて摘出をしました。


切開した膀胱を縫合し、漏れがないか確認していきます。
その後、切開した腹膜を縫合し閉腹を行います。その後切った甲羅を戻して閉甲し、甲羅を固定していきます。


麻酔からも時間をかけて覚醒し、徐々に動き出してくれるようになりました。
退院してからはいきみもなくなり、元気食欲も戻ってきました。

卵詰まりはカメ等の爬虫類でよく見る疾患で有り、排卵促進剤等の内科治療で改善することもあれば、外科的な摘出が必要になってしまうことも有ります。
小さなご家族が卵詰まりでお困り方は是非一度当院までご相談ください。