犬の副腎腫瘍
副腎とは腎臓の近くに対になってある臓器で、主にホルモンを分泌していたり調節をしていたりします。
副腎が腫瘍化すると、ホルモンが過剰に分泌されやすくなり、副腎の腫瘍化する部位によって分泌されるホルモンの種類や量が変化します。
犬では副腎腫瘍は比較的稀な腫瘍であり、猫だとさらに稀になります。
フェレットでは一般的な腫瘍になります。
治療としてホルモンを抑えるような薬を内服していく内科治療と、腫瘍になった副腎を摘出する外科治療に分かれます。
内科治療で症状が抑えられる場合も多いですが、腫瘍が大型化してきたり、根本からの治療を希望される場合には外科治療を考慮します。
体の中の位置の問題で、左側の副腎の方が右側の副腎に比べて摘出がしやすく、外科治療が考えらやすくなります。
症例
10歳のワイヤーフォックステリアが胆嚢の手術を希望して来院しました。
手術前の検査として各種検査を実施していくと、左側副腎が腫瘍化していることがわかりました。
また、血圧が正常よりもかなり高く、副腎からのホルモンの影響があることが考えられました。
希望されていた胆嚢の手術と同時に、副腎腫瘍の摘出術も同時に実施することにしました。
血圧を上昇させるホルモンを分泌する腫瘍が疑わしい場合、手術中の腫瘍の操作でもホルモンが分泌され、循環動態が不安定になりやすく、麻酔管理が難しくなります。
麻酔専門医の先生に麻酔管理をしてもらいながらの手術となりました。
腹部の真ん中を開いて開腹することに加え、腹部の左側を切開して大きく開き、副腎腫瘍を見やすく展開します。
副腎腫瘍の手術は体の深部を操作していくので、大きく開いた術野展開が重要となります。
副腎自体が、血管にかなり近接した部位に位置するので、腫瘍の周囲の剥離は慎重に実施しないと出血のリスクが高くなります。
腫瘍周囲を剥離し、主要血管を結紮し、副腎腫瘍を摘出しました。
周囲の剥離の際に副腎からホルモンが分泌されていることが予想され、血圧の上昇や低下など、循環動態が不安定になりましたが、その都度血圧をコントロールする薬剤を投与するなどして麻酔を安定化してくれました。
大きく開いた腹部を閉鎖し、手術を終えました。
術後は翌日までぐったりしていましたが、入院中日に日に元気になり、5日後の退院時には元気になって退院していきました。
腫瘍の病理組織学的検査の結果、褐色細胞腫と診断されました。
ホルモンを分泌する悪性の腫瘍であり、今後も経過をみていく必要があります。
犬の副腎腫瘍は、体の深部に位置することや大血管系に近い部位に存在することから手術手技の難易度が高くなりやすく、腫瘍の種類によってはホルモン分泌によって麻酔管理も複雑化することも多い腫瘍になります。
このような理由から、外科的な治療が敬遠されがちな腫瘍ですが、当院では手術のリスクとメリットをお話した上で、手術を実施することもあります。
副腎腫瘍によって小さなご家族がお困りの方は、是非当院で一度ご相談ください。