トカゲの卵胞うっ滞は時折見かける疾患であり、卵胞は大型化し卵黄で満たされる状態が数週間持続されることを言います。
飼育環境の問題や、栄養不足が原因とされていますが、実際の原因はあまりわかられていません。
症状としては食欲不振や削痩、腹囲膨満があります。
診断はレントゲン検査や超音波検査によって大型の卵胞を確認し、その持続する期間にて行いますが、判断が難しいこともよくあります。
治療としては、大型卵胞の持続している期間の間、状態を支持するような点滴や栄養補充などの内科療法や、卵胞を卵巣ごと除去してしまう外科療法に分かれます。
大型卵胞の持続時間が長く、症状が重篤な場合、外科療法を勧める場合が多いです。
症例
1歳のグリーンイグアナが元気消失、食欲不振を症状に来院しました。
レントゲン検査や超音波検査を行った結果、大型の卵胞が多数お腹に形成されていることがわかりました。
また、消化管内に異物もうつっていました。


内科治療によって栄養補給をしながら様子を見てみることも選択肢としてお話しましたが、卵胞の大きさと数が多いこと、消化管内にも異物があってそれも症状に影響を出していることも考えられた為、開腹手術をすることにご家族が希望されたため、実施することになりました。
手術は大型で多数の卵胞を、卵巣ごと摘出していく卵巣卵管摘出術と、消化管切開による異物の摘出を計画しました。
全身麻酔をかけて、人工呼吸用のカテーテルを気管に挿管していきます。

麻酔が安定してきたところで開腹を行っていくと、画像検査通り多数の大型卵胞が確認できました。
また卵胞の内容物である卵黄が腹腔内に漏れている所見も確認できました。


このままで時間が経過すると卵黄性腹膜炎に移行することが予想されるため、手術をして卵胞を除去することが有効な治療になります。
卵胞が割れないように丁寧に腹腔内に取り出していき、卵巣基部の卵巣動静脈を結紮と離断を行い、卵胞を卵巣ごと摘出しました。
また、卵の通り道でもある卵管も切除していきます。


消化管を触診していくと、結腸内に異物が触知できた為、結腸も切開し、異物を摘出しました。異物はビニール片のようなもので、ご家族が気づかない間に誤食をしてしまったものと思われました。


卵巣卵管摘出と、結腸内異物を消化管切開によって摘出した後、閉腹をしていきます。
食欲がない状態だったため、自分から食べなくても、胃の中に給餌できるようにするため、食道カテーテルを頸部に設置しました。


手術後は病院内では食欲はなかったのですが、お家に帰ると食欲が出てきて元気になってくれました。

トカゲの卵胞うっ滞は卵巣の周期がトカゲの種類や状況によっても異なってくるため、一概にこの状況でしっかり治療をした方が良い、という明確な基準はなかなかありません。
しかし、物理的に卵胞を除去してあげることによって症状が劇的に良くなることも多く経験をします。
よって、タイミングをみて手術を実施することは治療の一つの選択肢になると思います。
小さなご家族が卵胞うっ滞にてお困りの方は、是非一度当院にご相談ください。