インスリノーマは腫瘍化した膵臓の膵島細胞から過剰なインスリンが分泌され、低血糖を引き起こす腫瘍性疾患です。
犬のインスリノーマの発生は比較的珍しく、数多く遭遇するものではありません。
膵臓にできたインスリノーマからインスリンの放出が起きることによって低血糖が起こり、症状としてはふらつきや流涎、発作などが起こります。
診断は、他の要因での低血糖の発生の可能性を除外し、超音波やCT検査で膵臓にできた腫瘍を確認することによって疑いを高めます。
また、血中のインスリン濃度の測定が診断の助けになることもあります。
治療は血糖値のコントロールを行う内科的な治療と外科的に膵臓の腫瘍を切除していく方法に分かれます。
犬のインスリノーマは悪性度が高いことも有り、手術による切除後にも再発や転移が起こることもあります。
インスリノーマの切除後に血糖値が上がってしまい糖尿病になってしまうこともありますが、血糖値が高くなってくれる方が術後の生存期間は長いとされています。
症例
12歳齢のミニチュアダックスフントが発作を症状に来院しました。
血液検査を実施すると、低血糖で有ることがわかりました。
肝不全や大きな腫瘍の存在、アジソン病や敗血症の可能性を否定していくと、インスリノーマの疑いが高くなりました。
超音波検査にて明らかな腫瘍は認められず、CT検査を実施してみると膵臓に2箇所結節が見つかりました。
膵臓の結節の存在と、他の明らかな低血糖を起こす疾患の可能性が低そうなことから、インスリノーマを疑い、手術をおすすめしました。
手術によって、長期間低血糖の症状をコントロールできる可能性があること、他に転移が見られない状態で手術を実施すると、症例にもよりますが再発を認めないことがあることがメリットになります。
外科的処置のデメリットとしては、切除を実施しても再発や転移を起こしてしまう可能性があること、術後糖尿病になってしまうことがありうことや、術直後は膵炎が起こり命に関わることがあることが挙げられます。
上記をご理解いただいた上で、ご家族とご相談の上、手術を実施することになりました。
術中の麻酔中は低血糖にならないように血糖値を上げる薬を使いながら慎重に麻酔管理をしていきます。
麻酔をかけて体位を固定し、毛刈り、消毒を行い、ドレーピングをしていきます。
開腹をして膵臓を確認してみると、膵左葉の一部に明らかな腫瘍が見つかりました。
膵臓の周りを走っている血管を傷つけないように注意深く剥離をしながら、腫瘍だけを露出していきます。
十分に腫瘍が剥離できたら膵臓の一部ごと切除を実施します。
膵臓の切除は血管をシーリングするデバイスや特殊な縫合糸を使って実施しないと膵液が漏れてきてしまうことがあるので慎重に実施します。
膵臓の一部ごと腫瘍を切除し、出血や膵液の漏出がないことを確認して閉腹していき、手術を終了しました。
摘出した膵臓腫瘍を調べてみると、インスリノーマであることがわかりました。
術直後から血糖値は上昇し、低血糖性の発作は消失しました。
術後は再発がないかどうか、血糖値が下がって来ないかどうか注意深く状態を見ていきます。
犬のインスリノーマは比較的珍しく、外科的な治療が有効になることもある反面、手術を実施しても再発や転移が起こることもあるため、治療方法の判断が難しい病気でもあります。
小さなご家族がインスリノーマでお困りの方は、是非一度当院までご相談ください。