肝臓腫瘍
肝臓原発の腫瘍は珍しく、犬で腫瘍の0.6〜1.3%、猫で腫瘍の1.0〜2.9%で認められるとされています。
肝臓に腫瘍を認めた場合、犬では肝臓以外の腫瘍からの転移が一般的で、肝臓原発性の腫瘍に比べると2.5倍多く発生するとされています。
犬と猫の肝臓原発悪性腫瘍は組織学的には4つに分類されており、肝細胞系、胆管系、神経内分泌系(肝臓カルチノイド)、間葉系腫瘍(肉腫)と分かれます。
そのほかに、良性の病変である結節性過形成があります。
肝臓腫瘍は一般的に化学療法や放射線療法が効果がないことが多く、外科療法が適応になることが多いです。
肝臓腫瘍の外科療法を実施する上で、肝臓腫瘍の位置が非常に重要となります。
肝臓腫瘍が肝臓の中央部もしくは右側から発生していると、後大静脈という体で一番太い静脈を損傷するリスクが上がり、手術の難易度が上がります。
肝臓腫瘍が肝臓の左側から発生していると、比較的リスクが低く手術をすることが可能です。
肝臓腫瘍が肝臓全体に広がっていたり、転移性の腫瘍が疑われる場合には、内科治療や緩和ケアに移行し、経過をみていくことになります。
症例
12歳の雄のラブラドールレトリーバーがお腹が張っているとの主訴で来院しました。
レントゲンを撮影してみると胃内の異物とともに、腹腔内全体に広がる巨大な腫瘍がありました。
超音波検査を実施すると、腫瘍全体は脂肪のような見え方をしていました。
CT検査を実施してみると、肝臓中央部と肝臓右側から発生している巨大な腫瘍ということがわかりました。
肝臓腫瘍で肝臓の中央部と右側に位置していることから、手術の難易度はかなり高いことが予想されましたが、これだけ巨大な腫瘍を化学療法等の内科治療で縮小させることはかなり難しく、お腹の張りをとってあげるためにも、外科療法を実施することにしました。
肝臓腫瘍が巨大なのと、体自体も大きいため、お腹を大きく開く必要があります。
腹部正中切開に加え、左右の傍肋骨切開も加えて、大きく開腹をしました。
お腹を開けてみると、上腹部はほとんどが腫瘍が占めている状態でした。
腫瘍の位置を確認し、腫瘍に入ってきている血管を処理していきます。
その後腫瘍の基部を結紮して切除し、腫瘍を取り出しました。
切除後はお腹がほとんど空になる状態でした。
お腹の中を見ていくと、大網という膜組織に巨大な肝臓腫瘍と同じような小さな腫瘍が形成されていたので、転移病変を疑いました。
大きく開けたお腹を丁寧に縫合し閉じていきます。
手術を終了し、無事に麻酔からも覚めました。
1週間ほど入院し元気に退院していきました。
切除した腫瘍は30cm以上あり、重量は3kgほどありました。
内部は脂肪のような組織で構成されており、病理組織学的検査の結果は脂肪肉腫でした。
肝臓の脂肪肉腫に対する今までの治療報告は調べてみる限り見当たりませんが、肝臓原発の肉腫として考えると経過はあまり良くないことが予想されました。
ご家族とご相談の上、広い範囲での抗腫瘍効果のある抗がん剤にて化学療法を実施することになりました。
肝臓腫瘍は巨大になるまで症状を出さないこともよくあり、発見した時にはかなりの大きさということもよく経験します。
当院では切除の難易度が高い場合でもリスクとメリットをお話した上で、手術を選択肢の一つとして提示をしています。
小さなご家族が肝臓腫瘍でお困りの方は、ぜひ当院まで一度ご相談ください。