猫の肺腫瘍は時折遭遇する疾患であり、悪性のものの割合が高いとされています。
肺の腫瘍は、原発巣が他の部位にあって、その転移先として認められることがあります。
肺に単独の腫瘍があり、かつ他部位に転移が認められないときに外科的な治療を考えます。
猫の肺腫瘍は悪性のものも多いですが、肺にしこりを形成しているだけで、良性病変もときには存在をします。
(この場合厳密には腫瘍ではありません)
良性の病変か悪性腫瘍であるのかは、特に病変が小さいと病理組織学的検査を実施しないと判断できないことが多いです。
病理組織学的検査をするには手術を実施しないといけないことが多く、実際に行うかどうかはご家族としっかり相談しながら決めていきます。
症例
5歳齢の雑種猫が食欲低下と呼吸が速いことを症状に来院しました。
胸部レントゲンを撮影してみると、右側の胸に水が溜まっていることがわかりました(胸水貯留)
胸の水を抜いてみるとやや黄色で白濁している液体が抜けてきており、成分を調べてみると膿であることがわかりました。
胸に膿が溜まっているため、膿胸という状態であり、膿を抜く目的と、胸の中を洗浄する目的で全身麻酔下で胸腔ドレーンを設置しました。
同時にCTを撮影してみると、胸の中の、特に肺を疑う部位にしこりがあることがわかりました。
しこりが原因で膿胸になってしまっている可能性もありますが、猫の膿胸であると外傷もしくは呼吸器の感染から起こってしまう可能性が高く、ドレーンの設置と胸腔内洗浄を実施して経過を見ていくことになりました。
胸腔ドレーンを設置して胸腔内洗浄を行っていくと、段々と膿の量が減っていき、1週間ほどで溜まらなくなったことを確認して胸腔ドレーンを抜去しました。
その後、膿が溜まらない状態が続いていたのですが肺のしこりはなくならず、経過を見ていきました。
良性病変の可能性も十分考えられましたが、悪性の腺癌等の腫瘍の可能性も否定はできず、ご家族と十分に相談しながら、手術を実施しての病理組織学的検査に進むことにしました。
麻酔をかけて術野を作り、右第四肋間開胸術にて胸腔内にアプローチしました。
胸腔内を実際に見てみると、肺にもいくつか小さなしこりが確認できました。
実際のCTやレントゲンで写っていたしこりは、肺門リンパ節というリンパ節でした。
リンパ節が腫れている原因としては腫瘍も考える必要があるため、切除を行いました。
肺門リンパ節の切除は、心臓や大きな血管近くを剥離していかなくてはならないので、慎重に操作をしていく必要があります。
肺門部の剥離は微細な出血でも続いてしまうことが多いので、しっかり止血しながら剥離を進めていきました。
リンパ節の切除が完了した後、肺にいくつか見えていたしこりがあったので、肺葉ごと切除を行いました。
肺葉切除の術後は呼吸が悪化することもあるのですが、呼吸は安定した状態で退院していき、元気な状態で過ごしています。
切除したリンパ節と肺葉は病理組織学的検査を行い、リンパ節の反応性過形成と慢性化膿性気管支炎という診断になりました。
腫瘍ではなく良性病変であったのでご家族にも安心していただくことができ、猫ちゃん本人も元気で過ごせています。術後は3ヶ月ほど経過しているのですが、膿胸の再発もありません。
肺や胸の中のしこりは良性か悪性かの判断に病理組織学的検査が必要なことがあります。
小さなご家族が肺腫瘍や胸腔内腫瘍でお困りの方は是非当院にご相談ください。