卵胞うっ滞とは、卵巣内に卵胞(卵の元となるもの)が未排卵のままで数週間持続する状態で、飼育環境や栄養不足、肥満などが原因とされています。
症状は食欲不振や削痩、腹囲膨満など出てくることがあります。
長期間にわたって卵胞うっ滞が継続すると、体力の消耗がおきてきてしまうため、手術による卵巣ごとの摘出が推奨されます。
診断は超音波検査やCT検査にて卵胞のうっ滞を確認することです。
脂肪肝とは、肝臓に脂肪が蓄積されている状態で、生理的にも起こり得るが、脂肪と炭水化物の多給、肥満、慢性的な上皮小体機能亢進症、慢性的な高エストロゲン血症(卵胞うっ滞)、栄養障害、不適切な飼育環境が原因とされています。
症状は元気消失や食欲不振であり、他の疾患と区別することが難しいとされています。
診断は肝臓の一部を組織学的に調べる肝生検という検査ですが、肝臓の一部をとってくる必要があるので、開腹をする必要があります。
診断精度は落ちますが、細い針をお腹に刺して細胞を調べていく細胞診検査でも診断できることがあります。
症例
3歳のフトアゴヒゲトカゲが食欲不振と元気消失を主訴に来院しました。
超音波検査にて腹水と胸水の貯留が認められたので、更なる精査として胸水腹水の抜去とCT検査を実施しました。
CT検査にて卵胞が多数あることが判明しました。
産卵歴がないこと、卵胞の数が多いことからもご家族と相談の上で、開腹しての卵巣卵管摘出術を実施することになりました。
麻酔をかけて、人工呼吸用の気管チューブを設置した後、仰向けに体位を固定します。
腹部の消毒を行い、手術の準備を整えました。
腹部の鱗を切開し、開腹していきます。開腹すると異常に発達した卵胞を多数確認することができました。
卵胞を卵巣ごと切除をしていきます。卵巣を切除してしまうと、卵を運ぶ必要性がなくなってくるので、卵管ごと切除を行いました。
開腹しての腹部の臓器を探査していくと、肝臓の色合いが悪く、白色を呈していました。
脂肪肝を疑い、一部に肝生検を実施して閉腹しました。
食欲不振もあったので、食べれていない時は人工的に流動食を胃内に入れられるように食道チューブを設置しました。
切除した卵巣は、病理組織学的にも卵胞うっ滞を疑うものであり、肝臓は肝細胞の脂肪変性が重度だったことから、脂肪肝と診断をしました。
術後は腹水も少なくなり、元気は出てきたのですが、食欲は波がありました。
食道チューブからの給餌を続けて行ったところ、術後2ヶ月ほどで食欲がしっかり戻ってきました。
その後抜糸を終え、食道チューブを抜去し、治療終了としました。
爬虫類は哺乳類に比べて代謝がゆっくりのため、術後の回復にも時間がかかる傾向にあります。
小さなご家族が卵胞うっ滞や脂肪肝でお困りの方は、ぜひ当院まで一度ご相談ください。