猫の鼻咽頭狭窄は比較的珍しく、診断が難しい疾患です。
猫カゼのような上部気道感染に続発して起こること、内科治療に反応しない慢性的に続くズーズー呼吸音、いびきのような呼吸音が特徴です。また、鼻汁が少ないことも特徴の一つです。
診断は、内科治療に反応しない慢性的なズーズー音から鼻咽頭狭窄を疑い、後鼻孔の内視鏡検査で狭窄部位を確認するか、鼻腔のCT検査によって狭窄部位を確認することによって行います。
区別しなければいけない疾患として、慢性鼻炎や鼻腔内の腫瘍、鼻腔内異物、鼻咽頭ポリープなどがあり、それらの疾患でも鼻腔内の内視鏡やCTは有効になります。
狭窄部位のタイプは大きく分けて二つ有り、膜状の構造物が鼻咽頭に形成されて狭くなってしまうタイプと、鼻咽頭の組織の一部が肥厚し、比較的長い距離の狭窄を形成するタイプがあります。
治療は、内科治療にて反応がないことが多く、バルーンによる拡張術を実施するか、軟口蓋切開によってアプローチを行い直接切開することによって狭窄部位を拡張します。
症例
4歳齢の雑種猫が慢性的に続くズーズー呼吸音で来院しました。
他の病院にて鼻炎治療として内科治療を行っており、当院でも同様の治療を行い管理していくことにしました。
症状は重度ではないものの、鼻炎治療を行っていても症状は大きく変わらず、鼻汁が少ないことが特徴的でした。
鼻咽頭狭窄の可能性をご家族にお話し、全身麻酔が必須となってしまうので少し負担のかかる検査になりますが、内視鏡検査とCT検査を実施することにしました。
内視鏡を口より挿入し、反転させて鼻咽頭内に挿入し、後鼻孔の確認を試みました。
奥まで確認することができず、鼻咽頭狭窄を確認できました。
また、追加検査として鼻腔のCTを撮影し、狭窄部位が比較的長いタイプであることを確認しました。


狭窄部位が鼻咽頭の奥であることや狭窄の長さが比較的長いことから、切開での治療ではなくバルーン拡張術による治療をご提案し、ご家族の同意を得て実施することにしました。
全身麻酔をかけて、まずは鼻孔よりガイドワイヤーを挿入し、鼻咽頭まで到達をさせて、狭窄部位を通過させます。狭窄部位が狭いと、このガイドワイヤーを通す手技の難易度が高くなり、技術を要します。

ガイドワイヤーが狭窄部位を通過したことを内視鏡もしくは透視検査(レントゲンを動画で見れる検査)にて確認します。
その後、ガイドワイヤーにバルーンカテーテルを沿わせて通し、狭窄部位までバルーンを移動させていきます。透視検査でバルーン部位を確認し、規定の圧力までバルーンを拡張させて、狭窄部位を拡張させます。



一定時間バルーンを拡張させることを繰り返し、処置を終えました。


処置を終えた後にもう一度内視鏡で鼻咽頭を確認し、奥まで見えることを確認します。


処置を終えた後はズーズー呼吸音が消失し、呼吸が楽になってくれました。
バルーン拡張術は複数回の処置をしないと、狭窄部位が安定して拡張しないことが多いので、時間を開けて再度処置を実施することをお勧めしています。
猫の鼻咽頭狭窄は比較的珍しい疾患ですが、診断が難しいこともあり、うまく診断できていないことも多いと感じます。
鼻咽頭部の切開をした症例はこちらに載せております。
小さなご家族のズーズー呼吸音にてお困りの方は、是非当院までご相談ください。